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夏に筋膜はどう変わる?─炎天下で身体が“ゆるむ”科学

夏の暑さが増す季節、アスリートの身体は外的環境から大きな影響を受けます。脱水や熱中症といった生理的リスクに注目が集まりがちですが、見落としてはならないのが「筋膜」の反応です。筋膜は全身を包み込む結合組織で、運動制御、力の伝達、可動性や姿勢保持に深く関与しています。実はこの筋膜、温度に対して非常に敏感であり、とくに夏のような高温環境では、筋膜の物理的特性が劇的に変化するのです。

筋膜の主成分はコラーゲン線維と水分で構成されており、その間に存在する基質(いわゆる“間質液”)の粘弾性が、温度によって可逆的に変化することが知られています。一般的に、筋膜は40℃前後まで温度が上がると剛性(stiffness)が低下し、柔軟性が増します。これは、架橋構造のゆるみや、水分の移動性が高まることで、線維同士の滑走性が向上するためです。つまり、外気温が高い夏場は、筋膜が物理的に“ゆるみやすい”状態にあるというわけです。

運動中の筋肉活動でも熱が産生され、局所的には33~39℃に達するため、筋膜の柔軟性が自然に高まることは以前から知られていました。しかし、夏場にはこれに加えて環境温度そのものが高く、体表温や深部体温も上昇しやすくなります。とくに屋外での活動や人工芝、アスファルト上での運動では、輻射熱の影響も受け、体温調節機能がフル稼働状態になります。このとき筋膜も、すでに高温下にあるため、滑走性や弾力性が増しており、結果として関節可動域は広がりやすく、運動の開始初期から体が「よく動く」ように感じられることが多くなるのです。

実際、夏場にアスリートが「アップしてないのに身体が軽い」「ストレッチが深く入る」と感じるのは、この筋膜の温度依存性が関与していると考えられます。つまり、夏の暑さが自然な“筋膜リリース”のような作用をもたらしているともいえるでしょう。

しかし、この“ゆるむ”性質は諸刃の剣でもあります。筋膜が柔らかくなりすぎると、関節の支持性が低下し、特にジャンプやランジ、方向転換などの動作で過度な可動性が生まれ、関節周囲に過負荷がかかるリスクがあります。また、深部の筋膜が熱ストレスを受け続けると、慢性的な疲労や炎症の温床にもなりうるため、注意が必要です。

さらに、夏場は脱水傾向にも陥りやすいため、筋膜内の水分量が低下するリスクもあります。筋膜の滑走性には水分が不可欠であり、わずかな脱水でも筋膜の動きが鈍くなり、粘性が高まることで“ベタついたような”動きを誘発します。これにより、滑走障害が生じて筋痛や筋緊張、パフォーマンスの低下へとつながる可能性があります。

このように、夏の高温環境においては、筋膜の可動性が高まる一方で、安定性や水分保持といった側面では注意すべき課題も浮かび上がります。つまり、夏場のトレーニングでは「動きやすさ」に甘えるだけでなく、正しい水分補給、適切な強度の設定、そしてフォームの安定性の再確認が重要となるのです。

また、トレーニングや競技後には、過度に“ゆるんだ”筋膜を整えるケアも必要になります。アイシングや低温シャワーによる軽度の冷却は、筋膜の収縮性を一時的に高め、過可動性の状態をリセットする手段として有効です。加えて、リカバリー期における適度なストレッチや低強度の動的運動は、筋膜の水分バランスと張力を安定化させる助けとなります。

結局のところ、夏という季節はアスリートにとって「動きやすい季節」であると同時に、「過負荷に注意すべき季節」でもあります。筋膜が温度によって動的に変化する存在である以上、その性質を理解し、適切に対応することが、パフォーマンスとコンディションの維持において不可欠です。

夏の筋膜はまさに熱と動きのバランスの上に成り立つ“生きた組織”です。その性質を知り尽くした者だけが、炎天下の中でもしなやかで力強いパフォーマンスを発揮できるのです。

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