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脳で鍛える運動能力:イメージトレーニングのリアルな力と限界

運動スキルの獲得には、実際に身体を動かして体験することが不可欠であると長く考えられてきました。しかしながら、近年では運動を実行せずに、心の中でイメージする「運動イメージトレーニング」や「メンタルプラクティス」と呼ばれる方法の有効性が注目され、様々な研究がその効果を裏付けています。これらの手法は競技力の向上だけでなく、神経系の再構築やリハビリテーションにも応用されており、脳科学的にも興味深い分野となっています。

運動イメージは実際の動作を心の中で詳細に再現することを指します。SchmidtとLee(2005)は運動スキルの学習におけるイメージトレーニングの有効性について言及し、実際の身体トレーニングには及ばないまでも、フィジカルな練習と組み合わせることで学習効果が増大すると報告しています。つまりイメージトレーニング単独よりも、身体的トレーニングと併用することで、神経系への刺激が相互に補完し合い、結果的に運動パフォーマンスを向上させると考えられるのです。

しかしながら、Mulder(2004)はこのイメージトレーニングの効果が誰にでも当てはまるわけではないことを明らかにしました。彼らはイメージトレーニングが有効に機能するためには、学習者がすでにその課題に関連する運動表象を保有している必要があると指摘しています。つまり運動イメージはゼロから新しい動作を創造するのではなく、すでに脳内に構築された動作の再活性化に近いものとされます。これにより運動イメージは筋活動自体に直接的な影響を与えるというよりも、脳内での運動計画やプログラミングといった高次機能と密接に関係しているといえます。

また運動イメージの精度は、個人の一般的な運動能力によるものではなく、イメージされる特定の動作がどれほど現実的に実行可能であると予測されるかという「実行可能性」に基づいています。Witt(2011)は運動能力と環境知覚との関係性を示す興味深い研究を行っており、例えば重い荷物を背負っていると坂がより急に見えたり、バットなどの道具を持っていると対象物との距離を近く感じたりすることを示しました。これは視覚情報に加えて、自分がその環境で実際に行動できるかどうかという運動の実行可能性が、空間の知覚や判断に影響を与えることを示しています。

さらにWittはこのような知覚の変化が、実際の運動実行ではなく運動イメージの段階でも生じ得ることを示しました。つまり運動を行う意図と、それが現実的に可能であるという予測があることで、脳内の運動シミュレーションはより現実的になり、環境に対する知覚さえも変化させるということです。しかしその一方で、実行の意図が欠如していたり、また意図があっても他の課題によって運動器官の使用が制限されている場合には、こうした知覚の変化は生じません。これは運動イメージが単なる空想ではなく、意図と実効性の認知を基盤とする極めて現実的な脳内活動であることを示しています。

こうした知見を総合すると運動イメージトレーニングは、その効果を最大化するためには単に動作をイメージするだけでは不十分であることがわかります。より現実に近い動作を再現し、かつそれを実行する強い意図と実行可能性に対する現実的な予測をもって行うことが重要なのです。イメージされる内容が身体感覚や環境への対応といった複雑な要素を含むほど、より神経系の活動は高まり、実際の運動学習に近い効果が得られると考えられます。

運動イメージは高次脳機能のひとつとして、単なる「思い描く」という受動的な活動ではなく、脳内での運動プランニングや運動知覚のシミュレーションを通じて、運動パフォーマンスや技能習得に貢献する積極的な手段であるといえるでしょう。そしてそれはトレーニングやリハビリテーションの現場においても、その導入の仕方や指導の工夫によって、実際の運動トレーニングに匹敵する効果を発揮し得るのです。

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