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その“硬さ”、本当に筋肉のせいですか? ― 相対的柔軟性から読み解く身体の動きの真実

私たちの身体の動きは骨や関節という構造物だけではなく、それらに付着する筋や靭帯などの軟部組織によって大きく影響を受けています。特に軟部組織の「緊張」は、その組織が付着する骨や関節のアライメントや運動性に対して重要な制御因子となり、柔軟性や可動域の制限、さらには代償動作の出現にまで関与します。例えば、股関節周囲の拘縮や筋短縮があると、運動時に骨盤が本来の中立位を維持できず、前後傾や回旋などの代償的動作が現れます。これは局所的な硬さや短縮が、運動連鎖を通じて他部位にまで波及することを示しています。

具体的な例として、腹臥位での膝関節屈曲テストを挙げることができます。膝を屈曲する際に大腿直筋が短縮していれば、筋の起始部である骨盤が前方に引かれ、結果として骨盤の前傾と股関節の屈曲が生じます。したがって、骨盤を手で他動的に固定すると膝の屈曲角度が制限されるのが一般的です。しかし実際の臨床場面では、骨盤を固定しても屈曲角度が変わらない、あるいは骨盤が依然として前傾し続けるケースが存在します。このような現象は大腿直筋そのものの硬さや短縮とは別の要因、すなわち周囲の組織との相対的な柔軟性のバランスが崩れていることに起因すると考えられます。

この「相対的柔軟性(relative flexibility)」という概念は、Sahrmannらの運動系機能障害症候群における理論に基づくもので、ある関節や筋が他の部分よりも「より動きやすい」あるいは「より動きにくい」状態にあると、運動時にそちらへと運動が偏ってしまうという考え方です。つまり、特定の筋が絶対的に硬いというよりも、周囲の組織とのバランスにおいて「相対的に硬く感じられる」ために、運動時にその方向に制限が生じたり、代償的な動きが誘発されたりするのです。

例えば、体幹の屈曲・伸展運動において、股関節屈筋群が短縮していなくても、腰椎の過剰な柔軟性があれば、動作時に股関節よりも腰椎に過剰な可動が現れることがあります。これは腰椎が相対的に「動きやすい」ために、実際の運動が本来求められる関節ではなく、過可動な部位に集中してしまうという現象です。こうしたメカニズムは腰痛の発生要因としても重要視されており、腰椎の過剰可動性と股関節屈筋の硬さの組み合わせが、脊椎周囲の過負荷を引き起こすとの報告もあります。

このような視点から考えるとトレーニングやリハビリテーションにおいて、単に「硬い部位をストレッチする」「柔らかい部位を強化する」といった処方では不十分であることが分かります。重要なのは、それぞれの部位が「どのような関係性にあるか」「どの方向に動きが偏っているか」「代償動作がどこから生じているか」を包括的に評価することです。筋の絶対的な柔軟性や筋力だけではなく、運動連鎖の中でのバランス、動作時の協調性、そして姿勢との関連性までを視野に入れた包括的なアプローチが求められます。

また相対的柔軟性に加えて、筋の張力特性や粘弾性、筋膜の滑走性といった生体力学的要素も無視できません。筋膜の滑走不全があると、たとえ関節の可動域自体に制限がなくても、隣接する構造との摩擦や緊張が運動を阻害することがあります。そのため、筋のストレッチやモビリゼーションに加え、筋膜リリースなどの介入も戦略の一つとして有効であるといえるでしょう。

身体の柔軟性や関節可動域の評価・介入においては、個々の筋や関節を孤立して捉えるのではなく、全体の関係性、つまり相対的な柔軟性・硬さを評価しながら、動作全体の調和を図ることが不可欠であるということです。これは単なる評価技術というよりも、ヒトの身体の連動性を理解した上での戦略的な介入を意味しており、より効率的で再現性の高いトレーニングやリハビリテーションを実現するための基盤となります。

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