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動感の引き出しをいかにして育むか

私たちがスポーツ動作を習得する際、「どのように動けばいいか」を言語的に理解することと、「実際にそのように動けるか」ということには大きな隔たりがあります。この隔たりを埋めるのが、しばしば「動感」と呼ばれる身体感覚であり、それはしばしば非言語的、感覚的な「身体知」として表出されます。動感身体知とは理論的な知識やフォームの情報ではなく、身体の中に蓄積されていく「動きの実感」であり、いわば運動経験の中で醸成される感覚的な知のことです。

動感は運動学習の初期段階ではなかなか明確には意識されません。ところが、反復練習を重ねるうちに「こうすればうまくいきそうだ」という予感のような感覚が芽生えるようになります。このような動感は感覚運動系の自己組織化によって成立するという観点が、近年の運動制御研究では注目されています。ダイナミカルシステム理論では運動は個体・課題・環境の相互作用のなかで自然に組織化されるものであり、運動の巧拙は特定の最適解を機械的に再現するのではなく、環境に応じた適応的なパターンを生み出す柔軟性にかかっているとされます。

また、パフォーマンスにおける動感の役割を捉える際、Wolfらによる「焦点の理論(Focus of Attention)」の研究が示唆に富みます。内的な感覚(例:「肘の角度を意識する」)に注意を向けるよりも、外的な対象(例:「的に当てる」「ボールの軌道を意識する」)に焦点を当てたほうが、パフォーマンスと学習の効率は高まるという結果が多く報告されています。これは意識的に自分の動きを細かく操作しようとすることが、むしろ自然な運動制御を妨げてしまうことを示唆しており、動感のような内的な運動感覚が、むしろ無意識的・経験的に形成されるべきであることを裏づけます。

このような動感の蓄積には、単一の動作を精密に繰り返すよりも多様な運動経験が重要だと考えられています。Schmidtの変動練習理論(variability of practice)では、異なる運動パターンを意図的に体験することで、状況の違いに適応できる柔軟な運動スキルが獲得できるとされています。たとえば野球のバッターが常に同じ球種・同じ速度の球だけを打つのではなく、さまざまな変化球やリリースタイミングの違う投球を打つ練習を通して、自然と適応的な打撃パターンが形成されていくような現象です。このとき、選手は「こう来たらこう打てる気がする」といった、言語化しがたい感覚を養っています。これが動感の経験則であり、それが行動として再現されるのは環境との即時的な相互作用の中なのです。

また、動感は模倣と観察学習にも深く関係しています。脳科学的には、他者の動きを見たときに自分の運動野が活性化する「ミラーニューロン系」の存在が知られており、これは動作の意味や目的を理解するだけでなく、自身の運動感覚にも影響を与えると考えられています。つまり「見て真似る」という行為の中で、直接体験せずとも動感の雛形を脳内で形成することが可能であり、実際の運動時にその雛形が再利用されることで運動パフォーマンスが引き出されます。

こうした観点からアスリートが「バァーン!」といった擬音や身振りで動作を伝える場面には、極めて本質的な学習メカニズムが潜んでいるといえます。言葉による厳密な定義ではなく、感覚的に「こうだ!」という表現は、動感の伝達手段であり、聞き手の身体知を刺激し、内的な再構成を促す媒体なのです。

結局のところ、スポーツにおけるパフォーマンスとは、理論的な運動の理解やフォームの正確性を競うものではなく、状況に応じて即興的に動きを編成する能力にかかっています。つまり、動作を「頭で考えてやる」ことよりも、「身体で感じて出す」ことこそが重要であり、そのためには多様な運動体験を通じて、動感の引き出しを豊かにし、再現ではなく適応を重視した学習環境を構築することが求められます。

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