日々の健康やパフォーマンス管理ができる施設「PHYSIO」のHPはこちら

炎症反応の経時的変化とその生理的意義

炎症反応は感染や組織損傷に対する生体の防御機構のひとつであり、その過程は時間とともに特徴的な変化を示します。炎症は単なる「赤く腫れて熱を持って痛む」といった局所症状にとどまらず、損傷組織の修復と恒常性の回復を目的とした、生理学的に精緻なプロセスです。

炎症の最初の段階は、損傷あるいは感染の発生です。細菌感染、ウイルス、毒素、外傷などの刺激により、組織や細胞が障害を受けると、局所において細胞からDAMPs(損傷関連分子パターン)が放出され、これをマクロファージや好中球などの自然免疫細胞がTLR(Toll様受容体)などを介して認識します(Takeuchi & Akira, 2010)。この認識により炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6など)の分泌が始まり、炎症カスケードが作動します。

急性炎症の初期には血管反応が主たる変化として生じます。局所の毛細血管が拡張し、血流が増加して充血が起こります。同時に血管内皮細胞の接合部がゆるみ、血漿成分や白血球が血管外に漏れ出すことで、浮腫や滲出が生じます。この段階では血管透過性の亢進が特徴であり、これによって免疫細胞や補体、免疫グロブリンなどが局所に到達しやすくなります(Medzhitov, 2008)。

次に進行するのが細胞性炎症反応です。まず最初に動員されるのが好中球です。好中球はケモカイン(IL-8など)により活性化され、血管内皮に接着して組織内へと移動し、病原体の貪食・殺菌を行います。この過程にはセレクチンやインテグリンといった接着分子が関与しており、これらの分子の発現は炎症性サイトカインによって調節されます。続いて単球が組織に浸潤し、マクロファージに分化します。マクロファージは死んだ細胞や異物の処理を担うだけでなく、後続の炎症反応の収束や組織修復の開始にも関与します。

炎症反応の経時的変化において重要なのは、初期の「排除」段階から、やがて「抑制」および「修復」へと機能が移行していく点です。マクロファージは炎症誘導性(M1)から抗炎症誘導性(M2)へと表現型を変化させ、TGF-βやIL-10などの抗炎症性サイトカインを分泌し、炎症の沈静化と組織再生を促進します。

組織修復の段階ではまず毛細血管の新生が起こり、血流供給の再構築が図られます。これと並行して線維芽細胞が増殖し、膠原線維を分泌して肉芽組織を形成します。肉芽組織は最終的に線維性瘢痕組織へと変化し、組織の強度を保つ構造となります。一方で皮膚や粘膜のような上皮組織では、基底層の細胞が活発に分裂し欠損部分を覆うように再生が進行します。

炎症の経時的変化はあくまでも生体にとって有益な反応ですが、時にこれが制御不能となることで慢性炎症に移行することがあります。慢性炎症ではリンパ球やマクロファージが主たる細胞となり、持続的なサイトカイン分泌と線維化が進行します。このような状態は動脈硬化、糖尿病、がんなど多くの生活習慣病の基盤となることが示されています(Hotamisligil, 2006)。

このように炎症反応は、発症初期の防御から最終的な修復まで、時間とともに段階的に機能と細胞構成が変化していきます。それぞれのステップは免疫学的に精緻に制御されており、炎症が過剰であっても不十分であっても、組織にとっては不利益となります。炎症のメカニズムを正確に理解することは、疾患の予防や治療において極めて重要であるといえるでしょう。

関連記事

営業時間


平日 10:00 ~ 22:00
土日祝 10:00 ~ 20:00
※休館日は不定休
専用駐車場はありませんので近隣のコインパーキングをご利用ください。

お問い合わせはこちらから

お問い合わせはお電話・メールにて受付しております。

0120-240-355 お問い合わせ
RETURN TOP
タイトル