スポーツにおける高いパフォーマンスを達成するためには筋力や持久力といった身体的資質だけでなく、運動を正確に制御し調整する能力、すなわち感覚フィードバックに基づく運動制御が極めて重要です。感覚フィードバックとは視覚、聴覚、固有感覚、触覚、前庭覚などの感覚器から得られる情報をもとに、実行中の運動を調整する神経生理学的な仕組みのことを指します。
競技パフォーマンスにおいては、たとえば視覚運動協応がボールスポーツにおけるキャッチやシュート、ターゲットの認識に必要不可欠です。ピアノやバイオリンといった楽器演奏においては聴覚フィードバックが演奏の質を保つために必須とされるように、運動中の身体から得られる感覚情報は、筋の収縮様式や運動軌道の微細な調整を行うためのガイドとなります。これはセンサーと制御系が組み合わさった「閉ループ制御」と呼ばれる仕組みで、目標とする動作と実際の動作との誤差を感知し、リアルタイムで調整する機能を有しています。
このような感覚フィードバックは、特に新たな運動スキルを習得する初期段階では極めて重要です。ある程度自動化された運動においては、感覚入力が多少遮断されても遂行可能である場合がありますが、未習熟の運動や複雑な動作を新たに学ぶ過程においては感覚情報が存在しなければ運動の正確性が著しく損なわれます。これを裏付ける研究として、Ghez(1995)は感覚障害をもつ被験者が、視覚や固有感覚を遮断された状態では新しい運動課題の学習が著しく困難になることを示しています。すなわち感覚情報は運動の遂行と学習の両方に不可欠であることが明らかになっています。
感覚フィードバックには「内在的フィードバック」と「外在的フィードバック」があります。内在的フィードバックとは運動を遂行した身体自身が生み出す感覚情報であり、たとえば跳躍後の着地の感触や、スイングの際の筋の張り感などが該当します。これに対し外在的フィードバックは、コーチやトレーナーが与える言語的な指示、映像によるフォームの確認、数値によるフィードバックなど、身体外から与えられる情報です(Magill & Anderson, 2017)。内在的フィードバックは運動を自動化させ無意識的な制御を可能にしますが、学習初期には外在的フィードバックがその内在的な処理の強化を助ける役割を果たします。
近年では運動学習において「運動の帰結(Knowledge of Results)」と「運動の遂行(Knowledge of Performance:)」という2種類の外在的フィードバックが注目されています。KRは例えばジャンプの高さやスローの距離などの結果に関する情報であり、KPは運動そのものの動作の質に関する情報です。アスリートのパフォーマンス向上のためには、このKPを利用して細かいフォーム調整やエラー修正を行うことが有効であるとされています。
さらに感覚フィードバックは将来的な運動を予測し制御する「フィードフォワード制御」の内部モデルの形成にも重要な役割を果たします。運動制御においては過去の運動経験から生成された内部モデルが、感覚フィードバックに基づいて常に修正・更新されていることがわかっています。アスリートが一度体得した動作を再現可能にする背景には、このような内部モデルの存在と、それを支える感覚フィードバックの継続的な更新があるのです。
また神経可塑性の観点からも感覚フィードバックは脳内の運動野や感覚野の再編成を促進するとされており、反復練習によって特定の動作が神経学的に強化される仕組みもこのフィードバック機構によって支えられています。つまり感覚フィードバックは一時的な運動調整だけでなく、長期的な技術習得と定着にも寄与しているのです。
このようにアスリートの運動パフォーマンスを支える基盤には、感覚フィードバック制御と学習フィードバックの二重の機能が密接に関係しており、その適切な活用が競技成績や動作の精緻化に直結します。現場においては映像分析やセンサー計測、フィードバック装置を駆使したトレーニング方法が一般化しつつあり、感覚情報に基づく運動学習の理解は今後さらに進展することが期待されます。