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アスリートのパフォーマンスと呼吸運動

私たちの呼吸運動は通常は無意識のうちに延髄に存在する呼吸中枢によって制御されていますが、運動中や特定のトレーニング時には意識的に呼吸筋を収縮・弛緩させて調節することが可能です。とくにアスリートにおいては、この呼吸の調節機構がパフォーマンスに大きく関与していることが近年の研究で明らかになっています。呼吸の効率性は酸素の供給と二酸化炭素の排出に直結するため、持久力や回復力、さらには集中力にも影響を与えると考えられています。

呼吸運動の神経的な調節には肺迷走神経反射が関与しており、これは吸息時に肺胞が伸展することで伸展受容器が迷走神経を介して呼吸中枢にインパルスを送り、呼息が促されるというメカニズムです。これにより肺の過膨張を防ぎ、適切な呼吸リズムを維持することが可能となります。また呼息によって肺胞が収縮すると、インパルスが減少して再び吸息が開始されるため、自然な呼吸のリズムが形成されます。このリズム性は、アスリートが高強度の運動中でも安定した呼吸を保つうえで重要な役割を果たしています。

さらに化学的な調節機構として、中枢および末梢の化学受容器が呼吸の駆動に関与しています。血中の二酸化炭素分圧(PaCO₂)の上昇や酸素分圧(PaO₂)の低下、あるいはpHの低下がこれらの受容器を刺激し、呼吸中枢を活性化させて呼吸数や換気量を増加させます。運動中には筋活動の増加に伴い、CO₂の産生が増え、血中のpHが酸性方向に傾くことが多く、この変化に対して呼吸が迅速に反応することで、体内の酸塩基平衡を保つことができます。

アスリートのパフォーマンスにおいて、こうした呼吸調節機構の適応能力が非常に重要です。たとえば長距離ランナーや自転車競技選手などの持久系アスリートでは、運動時の換気応答がトレーニングによって高められ、少ないエネルギーコストで効率的に酸素を取り入れる能力が向上していることが報告されています(Dempsey.1996)。これにより、より高い運動強度を長時間維持することが可能になります。

一方で高強度・短時間の運動を行うスプリント系のアスリートにおいても、呼吸のタイミングと筋活動との連携が重要です。たとえば、バーベルスクワットやデッドリフトなどの挙上時に息を止めるバルサルバ法が利用されることがありますが、これは一時的に体幹の安定性を高め、筋出力を最大化させる戦略として知られています。しかしこの方法は血圧の急激な上昇を引き起こすため、適切な知識と段階的な指導が必要です。

呼吸筋のトレーニングもまた、アスリートにとって有益であることが示されています。呼吸筋、特に横隔膜や外肋間筋は、通常の筋肉と同様にトレーニングによって強化が可能です。Inspiratory Muscle Training(IMT)と呼ばれる呼吸筋トレーニング法では、吸気抵抗を付加して横隔膜の筋力と持久力を高めることができ、運動耐容能の改善が報告されています(Romer.2002)。これはとくに競技中に呼吸困難を感じやすい選手や、高地トレーニング環境など低酸素下でのパフォーマンス向上を目指す場合に効果的とされています。

また近年では呼吸と自律神経系の関連性にも注目が集まっています。深く、ゆっくりとした呼吸は副交感神経を優位にし、心拍数やストレスホルモンの分泌を抑制する効果があるとされており、試合前の緊張状態を緩和し、集中力を高めるメンタルトレーニングの一環として呼吸法が取り入れられるケースもあります。このように呼吸は単なるガス交換のための生理的活動にとどまらず、運動パフォーマンス全体に影響を及ぼす多面的な要素として再評価されています。

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