Muscle Girding(筋肉の防御収縮)とMuscle Spasm(筋痙攣)はいずれも筋肉の異常な緊張状態を指しますが、パフォーマンス最大化においては異なる視点から理解し、対策する必要があります。
まずMuscle Girdingは、一般的に組織損傷や痛みに対する防御的な筋活動を意味します。たとえば脊柱周囲の筋がぎゅっと硬くなり、関節や神経のさらなる損傷を防ごうとする現象がこれにあたります。これは一種の生理的な防衛反応ですが、運動パフォーマンスという観点では可動域を制限し、筋出力の伝達効率を低下させる要因になります。
たとえば腰部の防御収縮が強い状態では、体幹の回旋動作や股関節屈伸動作がスムーズに行えず、スプリントやジャンプ、投球動作などで力の伝達効率が大きく損なわれることが報告されています。
一方Muscle Spasmは筋肉が不随意に持続的収縮している状態を指し、通常は局所的な虚血(血流不足)や、筋紡錘の過活動、あるいは中枢神経系の反射活動異常により生じます。スポーツ場面では急激な方向転換やコンタクトプレー後に特定の筋群が強く攣るケースが多く、これにより即時的なパフォーマンス低下と、場合によっては二次的な組織損傷(筋断裂など)が引き起こされます。
これら二つの異常緊張をパフォーマンス最大化の観点で捉えると、最も重要なのは「異常緊張の早期検出と適切な介入」です。Hallら(1998)の研究では、筋緊張の早期段階で適切なモビライゼーションや神経筋リトレーニングを行うことが、防御収縮から慢性運動障害に進展するリスクを抑制できることが示されています。また、ProskeとGandevia(2012)は筋スパズムに対しては局所的な温熱療法やストレッチング、電気刺激療法が有効であり、筋スパズム発生時にはすぐにこれらを組み合わせたアプローチを取るべきと述べています。
防御収縮(Girding)に対しては、単純に「硬さを取る」ことだけを目指すのではなく、なぜ防御反応が生じたのかという原因分析が不可欠です。たとえば腰部の防御収縮がある場合、それが椎間板への負荷、仙腸関節の不安定性、あるいは神経根刺激によるものであるのかを判断しなければ、無理に硬さを取ることでかえって障害を悪化させる危険性もあります。そのため可動域検査や神経学的テスト、筋出力パターンの分析などを通じて、慎重に介入を行う必要があります。
またパフォーマンスを最大化するためには、これらの異常緊張を単なるリスク管理の対象とするだけでなく、「最適な筋緊張状態」を常に維持する意識が求められます。筋肉は完全な弛緩状態でも、過緊張状態でも、パフォーマンスが最大化されません。適度なトーヌス(筋緊張)を保ち、必要なときに迅速に最大出力へ移行できる準備状態にあることが理想です。
この観点から、普段からの神経筋制御トレーニングや、ダイナミックストレッチング、さらには呼吸法を用いた副交感神経優位化のトレーニングが推奨されます。
特に呼吸のコントロールは、防御収縮やスパズムの予防にも直結します。呼吸が浅く速くなると交感神経優位となり、筋緊張が高まるため、腹式呼吸や呼吸同調運動を日常的に取り入れることで、筋肉が過剰収縮に陥るリスクを低減できると報告されています。