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「力み」をいかに抑えるか

アスリートが最高のパフォーマンスを発揮するには、過度な筋緊張、いわゆる「力み」をいかに抑えるかが重要な課題となります。実際、筋肉に過剰な緊張があると、関節の可動域が狭まり、スムーズな動作が妨げられるだけでなく、神経筋制御の精度も低下し、怪我のリスクが増大することが報告されています(Kibler.2006)。では、なぜ人は意図せず力が入りすぎてしまうのでしょうか。

まず力みの原因としては、痛みに対する防御反応、不安や恐怖心、過去の運動学習に基づく動作パターンの習慣化、そして動作の成功を意識しすぎる過剰な注意集中などが挙げられます。特に運動に対する過剰な自己意識、つまり「動かそう」「うまくやろう」という思考は、筋出力の協調性を乱し、非効率な同時収縮を招くことが知られています(Wulf.2010)。

この問題を解決する第一歩として、力みの兆候を見極めることが重要です。動作中に力みが生じると対象筋だけでなく関係のない筋群まで同時に収縮する「共同収縮(co-contraction)」が見られ、これは表情のこわばりや動作のぎこちなさとして現れます。また筋紡錘や関節受容器のフィードバック機能が低下することで、位置覚や重さの感覚も鈍くなります(Proske & Gandevia.2012)。

これに対して意識の転換が有効です。つまり筋出力そのものに意識を集中する「内部焦点(internal focus)」から、動作の結果や感覚に意識を向ける「外部焦点(external focus)」への切り替えが推奨されます。実際Gabriel Wulfらの研究によると、外部焦点の使用は筋活動の効率化、運動学習の促進、そして力みの抑制につながることが一貫して報告されています(Wulf.1998・2010)。

また反対側の身体を用いた感覚入力も有効です。たとえば右手に力が入りやすい場合、まず左手をリラックスして動かしてもらい、そのときの感覚や思考内容に注意を向け、それと同じように右手も動かしてみるという方法です。これは身体の左右差を利用して中枢の緊張パターンに気づきを与える「クロスモーダル感覚統合」の一種であり、動作への不安や痛みに対する予測的な緊張を軽減させます。

さらに身体の位置覚に意識を集中することも、過緊張を緩和する手段として有効です。たとえば「今、指はどこを向いていますか?」といった問いかけを通して、自己の身体感覚への内受容的注意を高めると、過剰な出力から注意をそらし、筋緊張が自然と緩和されていきます。これは内因性感覚への注意が脳内のセンサーリモーター統合を促し、非効率な緊張を減少させるという神経科学的な背景があります(Craig.2002)。

このようにアスリートが力まないためには、「身体に意識を向けない」のではなく、「どこにどう意識を向けるか」を正しく選択する必要があります。たとえばある程度の痛みや恐怖がある場合には、「痛くない位置に意識を置く」「他の部位との違いを感じる」「スムーズさを評価する」など、脳の注意の矛先を操作するだけで緊張の質が変わることもあります。

運動のスムーズさを回復させるには、リズムやテンポといった「時間構造」の再認識も重要です。実際、運動中のテンポを言語的なカウントや音楽と一致させることで、自律神経系が安定し、運動の精度が向上したという研究も存在します(Thaut.1996)。

最終的に動作時の意識のあり方は、筋緊張と密接に関係しています。アスリートにとって「力を抜く」とは単なる脱力ではなく、「目的に応じた最小限の出力を適切なタイミングで引き出すこと」と言い換えることができます。したがって、力まないことを習得するためには、繰り返しの経験に加え、自身の身体の状態を正確にモニタリングし、意識の持ち方を再構築するプロセスが不可欠です。

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