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マイオン核ドメイン理論

筋トレによって筋肉が太くなるメカニズムには、単にタンパク質が合成されるというだけでなく、筋細胞の核が増えるという現象が深く関係しています。この仕組みを説明するのが「マイオン核ドメイン理論(Myonuclear Domain Theory)」と呼ばれる概念です。筋肉の成長や修復の際に、筋繊維の中にある核の数とその役割がどのように働くのかを理解することで、筋肥大の本質に近づくことができます。

筋肉は他の多くの細胞と違い、「多核細胞」であることが特徴です。つまり、一つの筋繊維の中には複数の核が存在し、それぞれが自分の周辺領域を管理しています。この「核が影響を及ぼす細胞内の範囲」のことを「マイオン核ドメイン」と呼びます。筋タンパク質の合成は筋核の指令によって行われるため、核がカバーできる範囲には限界があります。つまり、筋繊維が大きくなればなるほどそれに応じて核の数も増えなければなりません。これは筋核1つあたりが維持できる細胞質の量(ドメイン)が一定だとする仮説に基づいています。

この考えは1980年代から提唱され始め、近年の研究によってさらに支持を集めています。特にEgnerら(2016年)の研究では、筋トレによって筋肥大が起こるときに、筋核の数が増えることが観察され、筋肉の成長には新たな核の獲得が必要であることが示されています。筋核の増加は主に「サテライトセル(衛星細胞)」と呼ばれる筋幹細胞によって行われます。筋繊維に微細な損傷が起こると、サテライトセルが活性化され、筋繊維と融合して新しい核を供給します。これにより筋繊維はさらに大きな構造を維持・管理することができ、結果として筋肥大が持続的に進行していくのです。

また、筋核の増加には「筋肉の記憶(muscle memory)」という現象との関わりもあります。一度トレーニングを行って筋核が増加した筋肉は、たとえトレーニングを中断して筋萎縮が起きたとしても、筋核は完全には失われないという研究があります。Bruusgaardら(2010年)は、マウスを用いた実験で筋萎縮後も筋核は長期間維持されることを示しました。これにより、再びトレーニングを再開した際には、すでに十分な数の核が存在しているため、筋タンパクの合成が迅速に再開され、短期間で以前の筋量を取り戻すことが可能になると考えられています。

さらに、筋核の数には「天井効果」があるとも言われています。つまり、いくら筋肥大を目指してトレーニングを継続しても、サテライトセルの供給能力や年齢、遺伝的要素などによって、筋核の増加には限界があるということです。加齢に伴いサテライトセルの活性が低下すると、新たな筋核を獲得しにくくなり、それが高齢者の筋肥大が若年者に比べて起こりにくい理由の一つとされています。これは臨床の現場でも確認されており、シニア世代におけるレジスタンストレーニングの効果が限定的であることに関係しています。

しかし一方で、適切な負荷と十分な栄養、回復時間を確保すれば、高齢者であってもある程度の筋核増加と筋肥大は可能です。そのため筋トレに年齢制限はなく、むしろ高齢者にこそ適切な運動刺激を与えていくことが健康維持・機能回復の面で重要であるとされています。

総じて、マイオン核ドメイン理論は、筋肥大という現象を単なるタンパク質の合成量の増加としてではなく、筋細胞内の構造的・機能的な変化として理解するための重要な視点を提供してくれます。筋肉を成長させるには、ただ重いものを持ち上げるだけではなく、核の増加や細胞内の指令系の拡張が不可欠であるということが、この理論から読み取れるのです。筋トレを科学的に理解し、より効果的な成果を得るためには、このような細胞レベルの知識もトレーニング戦略に取り入れていく必要があります。

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