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マウスピースとパフォーマンスの関係

最近ではボクシングやアメフトなどの接触が多いスポーツだけでなく、さまざまな競技のアスリートたちがマウスピースを使用しているのを目にするようになりました。マウスピースといえば、口の中のケガを防ぐためのものという印象が強いかもしれませんが、実はそれだけではありません。近年の研究では、マウスピースが脳への衝撃をやわらげる可能性や、運動パフォーマンスにも影響を与える可能性が示唆されており、注目が集まっています。

たとえば、有名なバスケットボール選手マイケル・ジョーダンは、ダンクシュートの際に舌を出すことで知られています。この行動は一見癖のように見えますが、実は運動生理学的に非常に興味深いとされています。というのも、舌を突き出すと、自然とあごが下がり、顔まわりの筋肉がゆるみます。多くの人は力を出そうとする瞬間に歯を強く食いしばる傾向がありますが、これは逆に筋肉の過緊張を引き起こし、身体の自由な動きを制限してしまうことがあります。

マウスピースには、こうした「無意識の食いしばり」を緩和する効果があると考えられています。実際に、ある研究では、マウスピースを着けた状態で運動パフォーマンスが向上したという報告もあります。たとえば、ジャンプ力や筋力テストの成績が良くなるというデータも存在し、あごの位置が神経筋制御に関係している可能性があるとする説もあります。これは、あごの筋肉がリラックスすることで、首や肩、さらには体幹部の筋肉の協調性が高まり、より効率的な動作ができるようになるからだとされています。

実はこの考え方は、現代になって突然出てきたものではありません。古代ギリシャのアスリートやローマ時代の戦士たちは、戦いや競技に挑む際に革のひもを噛んでいたと言われています。また、南北戦争時代の兵士が手術の痛みに耐えるために弾丸を噛みしめていたという話も有名です。これらの行動はすべて、「噛むこと」や「あごの緊張」が身体に与える影響を経験的に理解していた証拠とも言えるでしょう。

さらに、短距離走のスローモーション映像をよく見ると、トップレベルのスプリンターたちの多くが、顔の筋肉をできるだけリラックスさせて走っている様子が確認できます。これは、無駄な筋肉の緊張を排除し、最大限のスピードを発揮するためのテクニックの一つとも言われています。顔やあごの筋肉がリラックスすると、全身の運動連鎖にポジティブな影響を与えるという理論は、スポーツ医学の分野でも徐々に支持を集めつつあります。

もちろん、現時点でマウスピースの効果がすべて科学的に証明されているわけではありません。パフォーマンスへの影響についてはまだ研究段階で、明確なメカニズムや効果の程度については議論が分かれています。ただし、ひとつはっきり言えるのは、自分の口にしっかりと合ったマウスピースを使うことで、少なくともマイナスの影響は出にくいということです。逆に、合っていないマウスピースを使うと、噛み合わせのバランスが崩れ、かえって身体の動きが悪くなる可能性もあるため、注意が必要です。

つまり、マウスピースは単なるケガの予防具ではなく、あごの位置や筋肉の緊張状態を調整することで、パフォーマンスを高める可能性を秘めた「ツール」だと言えるのです。まだまだ未知の部分も多い分野ではありますが、競技力を追求するアスリートたちにとっては、試してみる価値のあるアプローチかもしれません。

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