姿勢を安定させるためには、横隔膜と骨盤底筋群がそれぞれ持つ「水平面」と「円柱構造」が、体の垂直軸上できちんと重なっていることがとても重要です。この二つがしっかりと上下に向かい合っている状態であることで、私たちは体の中心にしっかりと圧力、つまり腹腔内圧を保つことができます。
呼吸をするたびに横隔膜は下方向へと動き、お腹に対して圧力をかけます。そのときにその圧力を下で受け止める役割を果たしてくれているのが骨盤底筋群です。横隔膜と骨盤底筋群がしっかり向かい合っていれば、腹腔内に均等な圧力が保たれ、それが体幹の安定に繋がります。
このように腹腔内圧がうまく保てなくなると、当然体幹も不安定になります。それでも、私たちは日常生活を送るために体を支え続けなければなりません。その結果、本来なら支える必要のない筋肉や関節などが代わりにがんばることになります。たとえば、首や肩、腰まわりの筋肉が過剰に働くようになってしまうのです。
こうした状態が長く続くと、体には少しずつ負担が蓄積していきます。やがて筋肉の張りやコリ、違和感、そして関節の痛みへとつながってしまいます。さらに進行すると筋肉だけでなく腱や靭帯、軟骨といった体のさまざまな組織にも影響が出てきてしまうのです。
逆に言えば、横隔膜と骨盤底筋群がしっかりと向かい合い腹腔内圧が保たれた状態であれば、その内部にある脊柱、つまり背骨は安定し、体幹も安定します。その上で手や足といった四肢が働くことができるので、無理のない効率的な動きが可能になります。
しかし、圧力がうまく伝わらず漏れてしまっている状態では、四肢が本来の動きだけでなく体幹や脊柱を支える役割まで担わなくてはいけなくなります。そのため、腕や脚の動きに余計な負荷がかかってしまい、結果的に全身のバランスが崩れやすくなってしまうのです。
そして最も大切なのは人間の脳という司令塔が収まっている「頭」を支える脊柱が安定しているかどうかということです。脊柱が安定しているということは、生命活動を安定して送るためにも欠かせない条件です。
この脊柱の安定にも、やはり横隔膜と骨盤底筋群の連携が大きく関わっています。上下のバランスが崩れ、腹腔内圧が保てなくなると、私たちの体は無意識のうちに「頭をできるだけ高い位置に保とう」とする力が働きます。すると、その補正のために、首や肩、腰、股関節、膝など、体幹に近い部位が本来以上の役割を求められるようになります。
これが続くと、それぞれの部位に疲労がたまり、結果として痛みや不調が出やすくなってしまうのです。つまり、姿勢の安定や痛みの予防のためには、まずは横隔膜と骨盤底筋群の位置関係を正しく保ち、腹腔内圧をしっかりとキープできる身体づくりが必要だということです。