運動のコントロールに関する科学的な研究は、1980年代以降、神経科学や心理学、さらにはリハビリテーションといったさまざまな分野を巻き込みながら発展してきました。このように多角的な視点を持つことで、私たちがどのようにして運動を学び、身体を思い通りに動かせるようになるのかというメカニズムが少しずつ明らかにされてきたのです。運動の学習、つまり運動のコントロールを獲得するプロセスを理解するには、こういった比較的新しい学問領域が統合された視点が必要になります。
これまでに運動のコントロールに関してはいくつかの理論モデルが提案されてきました。そしてそれらの理論の中では、多くの議論や見解の違いが生まれてきた歴史もあります。とはいえ、これらの理論を深く探っていくことで現在では広く認められている運動制御の基本的な要素を整理することができますし、運動スキルの発達をより良く理解する手助けにもなります。
運動を実行する際に使われるコントロールの仕組みには、大きく分けて2つのタイプがあります。それが「フィードバック(閉ループ)」と「フィードフォワード(開ループ)」と呼ばれるものです。
まず、フィードバック、あるいは閉ループ機構と呼ばれるものは、運動中に感覚情報を受け取り、それをもとに運動を調整するタイプのコントロールです。たとえば、手を伸ばして何かを掴もうとする時に視覚や触覚などの情報を使って微調整をするような場面で働きます。この仕組みは、新しいスキルを学び始めたばかりの時期、特に複雑で細かな動作が必要な場面で重要になります。たとえば、目と手の協調が求められる動きなどでは、この閉ループ的な運動のコントロールが不可欠です。
一方で、フィードフォワード、または開ループ機構というのは、運動の開始前に得た感覚情報や経験をもとに、あらかじめ動作の計画を立てて実行するというスタイルのコントロールです。運動中に感覚情報を使って調整を行うわけではなく、運動が終わった後に結果を評価して次に活かすという形になります。この仕組みは、非常に素早い動きや、すでに十分に練習されて習得された運動において活用されることが多いです。なぜなら、運動が行われている最中には感覚情報がすぐに反映されるわけではないため、その場での調整が難しいからです。
これら2つのコントロール機構は、どちらか一方だけが使われるというものではなく、状況に応じて使い分けられたり、組み合わされたりしています。たとえば、生まれて間もない赤ちゃんは運動スキルを獲得するためにまずはフィードバック機構を中心に使いながら、ゆっくりと、そして慎重にさまざまな動きを試していきます。はじめは試行錯誤を繰り返しながら、感覚からの情報を頼りに動きを調整していくのです。
けれども、繰り返し練習を重ねていくことで、次第にその動作が洗練され感覚情報に頼らなくてもスムーズに動かせるようになっていきます。つまり、ある程度スキルが身につくと今度はフィードフォワード的な様式に移行し、動作の前に計画された運動プランに従ってスムーズに実行できるようになるのです。