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運動に対する音楽の影響

私たちは日常的に音楽を聴きながら運動することがありますが、実は音楽には運動パフォーマンスや身体機能に対して非常に深い影響を与える力があるとされています。特に音楽療法やリズムに乗せた感覚運動リハビリテーションなど、臨床現場でもその効果が注目されています。

音が私たちの脳に届くまでの流れを簡単に説明すると、まず音の情報は耳から蝸牛神経(聴神経)を通って脳幹へ送られ、そこから視床を経由して最終的に大脳皮質の一次聴覚野に伝えられます。この経路の途中にある大脳辺縁系は、感情や内分泌、自律神経の調整に関わる中枢であり、音楽が私たちの気分や身体に作用する一因となっています。

とくに重要なのが「下丘(inferior colliculus)」という脳幹の中にある聴覚伝導路の一部です。この部位は音のタイミングやリズムといった時間的な情報を処理するのに非常に優れており、運動を調整する脳部位とも密接に連携しています。つまり音楽のリズムが運動のタイミングと一致することで、動作がよりスムーズに行えるようになるのです。

実際に音楽に合わせて運動を行うと、筋肉の活動タイミングが整い、動きに一貫性が出やすくなります。これを「sensorimotor entrainment(感覚運動の同調)」と呼びます。たとえば、リズムに合わせて歩行訓練を行う「リズミックオーディトリースティミュレーション(RAS)」というリハビリ手法では、パーキンソン病患者や脳卒中後の片麻痺患者の歩行速度やバランス能力が改善したという研究報告があります(Thaut.1996)。

また高齢者に対する研究でも、音楽を取り入れた運動プログラムがバランス能力だけでなく視空間認知の向上にも効果的であることが示されています。音楽が単に「楽しい」から運動の継続を促すというだけでなく、脳の特定領域を刺激し認知機能に働きかけていると考えられています(Kim.2011)。

さらに音楽にはストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑えたり、自律神経系のバランスを整える作用もあります。これは運動パフォーマンスだけでなく、リカバリーや集中力の向上にも繋がります。特にリラックス効果の高い音楽は副交感神経を優位にし、心拍数や呼吸を安定させることで、身体の状態を整えるサポートをしてくれます。

そして面白いのは「音楽に合わせて体を動かしている」ように見えて、実は「音楽が私たちの動きをガイドしている」面もあるという点です。つまり音楽が「動きの軌道」や「タイミングのガイド」となってくれているんです。これは運動初心者やリハビリ中の方にとって、大きな助けになります。

音楽のテンポ、リズム、メロディー、さらには歌詞までもが私たちの感情や運動に働きかけ、脳と体を結びつけてくれます。科学的な観点から見ても、音楽は単なる「BGM」ではなく神経生理学的に深い関係性を持つ「運動のパートナー」だと言えるでしょう。

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