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「動きを見ること」と「動きを感じること」の関係性

私たちは運動をするとき、その動きを視覚的に捉えたり実際に体で感じたりします。特にパーソナルトレーニングやリハビリにおいては、適切な動きを身につけることが重要です。しかし運動形態を視覚的に理解することとそれを実際に再現することは必ずしも一致しません。この違いを考えるとき、「動きを見ること」と「動きを感じること」の関係性を理解することが鍵となります。

例えばゴルフや野球のスイングの動作を連続写真や動画で見たとしても、同じように体を動かせるとは限りません。これは単に目で見て理解することと身体で動きを習得することが異なるプロセスであるためです。動きを視覚的に捉えることができても、その動作を再現するためには、観察者に「動きを見抜く能力」が必要です。つまり、「動作を知ること」と、「実際にできること」の間には大きなギャップが存在します。

このような知識と技能の違いについて、哲学者のカントは興味深い例を挙げています。博物学者のキャムペルは靴の作り方を詳しく説明することができましたが、実際に靴を作ることはできませんでした。このエピソードは理論的な知識の習得が、実際の技能の習得には直結しないことを示しています。同様にイギリスの哲学者ポラニーは「何であるかを知る」(knowing that)と「いかにしてかを知る」(knowing how)を区別し、後者が技能の習得には欠かせない要素であると述べています。

この「いかにしてかを知る」には、暗黙知(tacit knowing)が深く関わっています。暗黙知とは言葉や理論では完全に説明しきれない知識のことであり、経験を通じて身体に染み込むものです。たとえば自転車の乗り方を誰かに言葉で説明しても、その人が実際に乗れるようになるわけではありません。これは自転車に乗るという技能が、単なる知識ではなく感覚やバランスを通じて習得されるからです。

このように運動を習得する過程では、動きを視覚的に理解するだけではなく身体で感じ取ることが重要になります。フランスの哲学者メルロ・ポンティは『知覚の現象学』において、『私たちが動こうとするときに意識するのは、客観的な身体ではなく、「現象的な身体」である』と述べています。これはつまり、私たちが自分の身体の動きを「感覚として捉える」ことで運動を理解しているということです。

さらに金子はこの身体の感覚を「動感形態」として捉え、動作の感覚や動感を重視した指導が必要であると述べています。動感形態とは単なる形状ではなく、身体が動くことで生じる感覚や動作に込められた意味を含んだものです。例えば、ダンサーが美しいターンをする際には、視覚的な形状だけでなく回転する際のバランス感覚やリズムの取り方が重要になります。

この観点から考えると、トレーニングやリハビリにおいても単に正しいフォームを視覚的に理解するだけでは不十分であり、実際に身体を動かしながら、その動きを感じ取ることが求められます。そのためには、動作を細かく分解し、段階的に練習することが有効です。また、トレーナーが言葉だけで説明するのではなく、動作を実演しながら指導することが、より効果的な学習につながります。

たとえば、スクワットを指導する際に「膝を曲げて腰を落とす」と言葉で説明するだけでは、適切なフォームを習得するのは難しいでしょう。しかし、実際にトレーナーが見本を見せながら、「この角度で膝を曲げると、太ももの前側の筋肉がしっかり使われる」といった説明を加えると受講者はより深く理解できます。さらに実際にスクワットを行いながら、どの筋肉がどのように使われているのかを体感することで動作が定着しやすくなります。

このように動作の学習には視覚的な理解だけでなく、身体で感じることが不可欠です。特にリハビリやパーソナルトレーニングでは、一人ひとりの身体の状態に合わせた指導が求められます。そのためには動作の形だけにとらわれず、動感形態を意識したアプローチが必要になります。

最終的に運動を学ぶ際には、知識と技能の違いを理解し実際に動いて体験することが重要です。単なる理論の学習ではなく感覚として身につけることで、より自然で効果的な動きが可能となります。トレーニングやリハビリを行う際には、この点を意識して取り組むことでより良い成果を得ることができるでしょう。

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