Infrastemal Angle(以下、ISA)は胸郭の形状や呼吸機能、姿勢バランスを評価する上で重要な指標の一つです。これは胸骨剣状突起の下部で肋骨弓が形成する角度を指し、一般的に正常範囲とされるのは70〜90度程度とされています。しかし、この角度が基準から逸脱するとさまざまな問題が生じる可能性があります。特に機能的な問題として呼吸パターンの乱れ、姿勢の崩れ、筋骨格系の不均衡などが挙げられます。
正常なISAは横隔膜と肋間筋の適切な協調により維持されます。横隔膜は胸郭の拡張と収縮を適切に制御し、呼吸の効率を高める役割を担っていますが、このバランスが取れていると安定した胸郭の運動が可能となり効率的な酸素摂取が実現されます。しかし、ISAが広がりすぎる、あるいは狭くなりすぎると呼吸機能に悪影響を及ぼす可能性がでてきます。ISAが広がりすぎる、つまり90度以上となるケースでは、横隔膜が平坦化しやすくなり適切なドーム構造を維持できなくなることが多くなります。その結果として腹圧の調整が難しくなり、胸式呼吸に偏りやすくなるわけです。このような状態では呼吸のたびに肋骨が過度に持ち上がる「上位胸郭主導型の呼吸パターン」になりやすく、慢性的な肩こりや頸部痛を引き起こすことがあります。また腹圧が適切にかからないため、体幹の安定性が低下し、腰痛のリスクも高まることになってしまいます。
一方でISAが狭すぎる、すなわち70度以下である場合には逆の問題が生じます。この状態では肋骨の動きが制限され、十分な胸郭の拡張が行えなくなってしまいます。結果として腹式呼吸の優位性が強まりすぎ、横隔膜の過剰な収縮を引き起こす可能性があるのです。横隔膜の機能が過剰に強調されると、背部の筋肉群が過剰に緊張し、姿勢全体の歪みが助長されることになります。特に骨盤の前傾や後傾が生じやすくなり、歩行時の効率やバランスにも悪影響を及ぼすことが考えられます。さらに肋間筋の動きが制限されるため、強制的に腹圧を用いた呼吸になりやすく、これが内臓の圧迫や消化器系の不調につながることも考えられます。
ISAのエラーが発生する主な要因としては、姿勢の乱れ、呼吸パターンの習慣化、筋のアンバランス、神経系の適応などが関係しています。例えばデスクワークが多い現代では、座位姿勢が長時間続くことにより、肋骨の可動性が低下しやすくなります。特に前屈みの姿勢が続くと、肋骨が内側に引き込まれISAが狭まりやすくなります。一方で過度なトレーニングやストレスによる過呼吸傾向がある場合、肋骨が外側に拡張しやすくなり、ISAが広がる傾向にあります。これらの変化が長期的に続くと、身体の適応としてその状態が固定化され、問題が慢性化する可能性があるのです。
ISAの異常を修正するためには、適切な呼吸トレーニングや姿勢改善が必要です。広がりすぎたISAに対しては、横隔膜のドーム構造を回復させるようなエクササイズが有効であり、例えば腹式呼吸を意識したトレーニングや肋骨の下部を引き締めるような体幹トレーニングが推奨されています。逆にISAが狭くなっている場合には、胸郭の可動性を高めるためのストレッチやリブフレアを意識した呼吸エクササイズを行うことで、胸郭の拡張能力を取り戻すことが重要です。