歩行は、人間が移動するための基本的な動作であり、「直立姿勢の維持」「バランスの保持」「足踏み運動」の3つの機能が組み合わさることで成立します。
これらの機能は、神経系によって統合され、適切に制御されています。
歩行をスムーズに行うためには、安定した姿勢を保ちつつ前進する必要があります。そのため、神経系は多数の筋肉の活動を協調させながら、適切な制御を行います。特に、一定の速さで移動するためには、下肢の運動を周期的に制御することが求められます。さらに、環境の変化に応じて歩行速度を調整したり、進行方向を変更したりする能力も必要です。
歩行の神経機構
歩行の神経機構には、大きく分けて「連鎖反射説」と「中枢パターン発生器(CPG)説」の2つの考え方があります。
連鎖反射説
連鎖反射説では、筋肉の動きが次の筋肉の活動を誘発し、それが連続してつながることで歩行運動が形成されると考えます。
最初の筋肉が動作を開始する。
その動作によって末梢の受容器が刺激を受ける。
その刺激が次の筋肉の活動を引き起こす。
この過程が連鎖的に続くことで、複雑な歩行動作が生じる。
このような連鎖反射が閉じたループを作ると、リズミカルな運動が繰り返され、結果として歩行が完成します。特に、下肢の運動のタイミングは、足の位置やフィードバックによる反射で制御されると考えられています。
中枢パターン発生器(CPG)説
一方、中枢パターン発生器説は、運動のフィードバックなしでも歩行のようなリズミカルな運動が発生することを示すものです。
この説の発端は、脊髄を切断した猫が外部から刺激を受けることで足踏み運動を行う現象が観察されたことにあります。
このことから、脊髄内部に「歩行を生み出す神経回路」が存在すると考えられました。
中枢パターン発生器の主な特徴は以下の通りです。
屈筋と伸筋を支配する神経回路が相互に抑制しあいながら交互の活動を持続する。
この相互作用を可能にする介在ニューロンのネットワークが存在する。
一定のリズムを持った運動パターンを作り出す。
昆虫などの無脊椎動物では、中枢パターン発生器の存在が確認されていますが、脊椎動物においては概念的なものに留まっています。
しかし、20世紀後半からの研究では、運動の制御に関する「スキーマ説」や「運動プログラム」、「運動プラン」の考え方と結びつき、より重要な役割を果たすものとして注目されています。
歩行制御の新しいモデル
近年では、基底核や小脳の役割を含めた新たな運動制御モデルが提案されています。
これにより、歩行制御のメカニズムがより詳細に説明されるようになりました。
基底核の役割: 運動の開始や調整に関与し、意図的な動作のスムーズな実行を助ける。
小脳の役割: 運動の精度を高め、バランスを調整する。
運動プログラム: 経験や学習によって蓄積された運動のパターン。
これらの要素が組み合わさることで、適応的かつ効率的な歩行が可能となります。